政略婚の妻に、王は狂おしく溺れる ―初恋の面影を宿す王妃―
その時だった。

騎士の一人が、血に濡れた鎧のまま王の間へよろよろと辿り着いた。

「……城門を突破されました!」

その言葉に、私達全員の顔色が一気に変わる。

「お父上、こうなったら和平交渉を!」

皇太子であるお兄様が、険しい声で父王に進言した。

だが父王は、玉座の肘掛けを握り締めたまま首を振る。

「いや……もう考えている暇はない。私が直に会いに行って、申し入れて来ます!」

「お兄様、それはあまりに危険です!」

必死の声も届かず、お兄様は振り返る。

「私が行かねば、誰がこの国を守る!」

「お兄様!」

私が呼び止める声も虚しく、お兄様は踵を返し、王の間を駆け出していった。

胸を締めつける予感が、私を支配していった。
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