政略婚の妻に、王は狂おしく溺れる ―初恋の面影を宿す王妃―
その微笑みは、戦場で名を馳せた王とは思えないほど穏やかだった。

食後、立ち上がったラディウスが私の頬を指先でそっと撫でる。

「寝る前に湯浴みをするといい。」

その声は優しいのに、どこか熱を帯びている。

そして低く囁かれた。

「今夜は初夜だからな。」

瞬間、胸がドキンと跳ね、息が詰まる。

湯気のように頬が熱くなり、心臓が暴れる。

昼間の誓いの言葉と、馬車で見せた安らかな寝顔――そのすべてが重なって、

“この人の妻として今夜を迎える”という現実が、はっきりと胸に迫ってきた。
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