政略婚の妻に、王は狂おしく溺れる ―初恋の面影を宿す王妃―
父王が静かに立ち上がり、相手方の王に歩み寄る。

すると不思議なことに、その堂々たる男は父王に向かって深く一礼した。

「ラディウスです。お初にお目にかかります。」

戦で名を轟かせる王から、まさかの敬礼――場の空気が一瞬揺らいだ。

「この度は、我らの和平交渉を受け入れてくれると聞いた。」

父王の声は、感情を抑えた冷静さを帯びていた。

「願ってもないことでございます。」

ラディウス王の表情に、先ほどまでの荒々しさはない。

その落ち着きは、嵐の目のように静かで、逆に底知れぬ力を感じさせた。

「椅子を用意しよう。まずはゆっくりと話し合おう。」

父王の言葉に、「はっ」と短く応じるその声音は、意外なほど柔らかい。

そのやり取りを、私は息を殺して見つめていた。
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