背筋を伸ばして恋をする。



「どちら、さまですか」


雑踏にかき消されそうな小さな声で聞く。



「キリュウです」



キリュウ?


そんな知り合いはいない。



ここに来て、本能的に危機を察知した。



これは、関わらない方がよさそう。少なくとも、今は関われる余裕がない。もう乗り換えの電車が行ってしまう。



「すみません、急いでますので」



一応の申し訳なさを感じつつ、キリュウなる人物の手を払ってエスカレーターの方向に身体を向ける。



「あ、待って」



振り返ると、その色白で端正な顔は焦ったように歪んでいた。



きれいな人だな



改めてそんな感想を抱きながら頭を下げて、再び背を向けていつものルートに戻る。




< 4 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop