背筋を伸ばして恋をする。
「どちら、さまですか」
雑踏にかき消されそうな小さな声で聞く。
「キリュウです」
キリュウ?
そんな知り合いはいない。
ここに来て、本能的に危機を察知した。
これは、関わらない方がよさそう。少なくとも、今は関われる余裕がない。もう乗り換えの電車が行ってしまう。
「すみません、急いでますので」
一応の申し訳なさを感じつつ、キリュウなる人物の手を払ってエスカレーターの方向に身体を向ける。
「あ、待って」
振り返ると、その色白で端正な顔は焦ったように歪んでいた。
きれいな人だな
改めてそんな感想を抱きながら頭を下げて、再び背を向けていつものルートに戻る。