帝の唯一の女〜巫女は更衣となり、愛に囚われる〜
幾時が流れただろうか。

障子の向こうが、ほのかに朱を帯びはじめた。

その淡い光が部屋を包むころ、私の掌に伝わる熱が、すっと和らいでいるのに気づく。

「……暁宮様。」

呼びかけても、返事はない。

ただ、静かに寝息を立てる安らかな横顔がそこにあった。

――ああ、峠は越えられた。

安堵の息がこぼれると、途端に全身の力が抜けた。

その手を握ったまま、私は畳の上に身を横たえ、眠りに落ちてしまう。

しばらくしただろうか。

どこか遠くで、人の笑い声がする。

「ほら、起こしてしまったではないか。」

「申し訳ございません、暁宮様。」

まぶたを開けると、そこには目を覚ました宮様と、口元を押さえて笑う従者の姿があった。

私の手は、まだ宮様の手を包んだままだった。
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