婚約破棄された上に魔力が強すぎるからと封印された令嬢は魔界の王とお茶を飲む
「ウィズヴァルド様。私、今、とても幸せです」
「そうか。だがそなたは我の元で、より一層幸せになるのだぞ。我は、そなたが喜ぶならば何だってしよう。何着だってドレスを仕立てさせるし、そなたの口に合う料理だっていくらでも作らせよう。部屋もそなたの望む家具を用意する。魔界にも風光明媚な場所はたくさんあるから、共に見に行こうではないか」
「ありがとうございます、ウィズヴァルド様」

 ラティエシアは、胸に込み上げてくる熱に任せて思い切り魔王に抱きついた。
 たくましい肩に頬を擦り寄せれば、お返しとばかりにラティエシアを抱える腕に力がこもり、髪に頬ずりしてくる。

 照れくさいけれど、嬉しくて仕方がない。
 しばらくその感触に浸ったあと、そっと身体を起こして金色の瞳をじっと覗き込んだ。

「ウィズヴァルド様。私、人のぬくもりがこんなにも幸せを感じさせてくれるものだなんて、今まで知りませんでした」
「ラティエシア嬢。これから毎日、こうして共に幸せを感じて参ろうぞ」
「はい、ウィズヴァルド様」

 大きくうなずいてみせた途端、魔王が目を伏せてラティエシアの髪に唇を寄せた。ちゅっと小さく音を鳴らす。

「……!」

 突然の出来事に、びくりと全身が跳ねる。淡いピンク色をしたシャボン玉みたいなオーラが次々と胸から飛び出してきて、風にさらわれていく。
 ラティエシアが恥ずかしさのあまり固まっていると、至近距離にある顔が歯を見せて笑った。

「今のはまだ早いか?」
「が、頑張って、慣れて参ります……」
「そうか。毎日少しずつ、慣らしていこうではないか」
「よ、よろしくお願いいたします!」

 ラティエシアがどきどきしていると、魔王が目映い笑顔で何度もうなずいた。
 優しい眼差しに、つい見とれてしまう。
 いつまでも眺めていたら、魔王の方から視線を逸らした。ほんのり頬が赤くなっている。

 ウィズヴァルド様も、照れたりなさるのかしら?
 そう尋ねようとした矢先、魔王が黒い翼を大きく羽ばたかせてさらに上空に舞い上がった。


 はるか遠くに、かすかに大渓谷が見えてくる。
 人間界と魔界とを隔てるあの谷を越えた先に、どんな日々が待ち構えているのだろう。わずかに不安がよぎる。
 すがるように、金色の瞳をこっそりと見上げる。するとすぐに視線に気付いた魔王が顔を綻ばせてくれた。優しい笑顔にたちまち前向きな気持ちでいっぱいになる。

(ウィズヴァルド様と一緒なら、きっと大丈夫)

 ラティエシアは力強い腕に包まれる中でそっと微笑むと、もう一度、心優しき魔界の王にぎゅっと抱きついたのだった。

〈了〉
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