婚約破棄された上に魔力が強すぎるからと封印された令嬢は魔界の王とお茶を飲む
「……。……はっ」

 びくりと体を震わせながらラティエシアは目を開いた。気絶していたはずなのに、なぜか立ったままだった。
 辺りを見回す。そこは、真っ暗闇――ではなく、わずかに紫がかった空間が広がっていた。

「これが、封印牢……――ひっ!?」

 気づけば両手首と両足首に無数の縄が巻き付いていた。その先端はまるで人の手のように枝分かれしていて、ぎゅっとラティエシアをつかんでいた。

「離して、離してっ……!」

 藻掻くうちに、徐々に魔力が吸われて行っていることに気がついた。封印牢とは、閉じ込めた者の魔力を吸い上げて枯れさせるために作られた魔法の牢獄だ。

「魔力が尽きたら、私が私じゃなくなってしまう……!」

 魔力が多すぎる自分は嫌。人か⁠ら嫌われてしまうから。
『でも、もしもこの世のどこかにこのままの私でも嫌わずにいてくれる人がいたら』――。
 それは他人から避けられるようになって以来ずっと、ラティエシアが夢見ていたことだった。

 魔力が尽きた自分を想像する。洩れ出る魔力が不快だと言われなくなっても、今度は『こんな簡単な魔法も使えないのか』と嘲笑の的になるかも知れない。

 そんなの理不尽すぎる――!
 怒りが魔力となって身体の中を渦巻く。
 これまでに感じたことのない強い感情は、オーラとなって可視化されるだけでは済まなかった。
 制御の効かなくなった魔力は攻撃魔法と化し、四方に放たれてしまった。封印牢のあちこちで爆発が起きる。

 無詠唱どころか感情が高ぶっただけで魔法が発動してしまうのは久しぶりだった。こうなるからこそラティエシアは感情が高ぶらない訓練を受けなければならなかった。周りの人に危害を加えないようにするために。
 その結果、『無表情で何を考えているかわからない』と言われるようになり、ますます避けられるようになった。

 魔力がありすぎても魔力がなくなっても、結局私は誰からも嫌われる。

「もう全部、抑えるの、やめよう……」

 これまでに溜まった鬱憤が、攻撃魔法となって次々と封印牢の壁に激突する。
 あちこちで炸裂する光をぼんやりと眺めていると、異変が起きた。


「――うっ……!?」


 いきなり男性の低い声が聞こえてきた。攻撃魔法がぶつかってしまったようだ。
 煙の向こうをよく見ると誰かが立っていた。驚くほどに背が高い。
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