婚約破棄された上に魔力が強すぎるからと封印された令嬢は魔界の王とお茶を飲む
 おびえて縮こまるラティエシアの頭の上から、温かな声が掛けられる。

「そうかしこまらずともよい。おもてを上げよ」
「は、はい」

 素早く顔を上げて、次の言葉を待つ。
 魔王はラティエシアを見ていなかった。魔法でできた空間をぐるりと見回して、ぱちんと指を打ち鳴らす。

 何もない空間に軽やかな音が響いた瞬間、真っ白な魔法の煙が炸裂した。

 煙が晴れたそこには、王族が使うような立派なひとり掛けの椅子が出現していた。慣れた様子でコートの裾を払い、優雅な仕草で腰を下ろして長い足を組む。
 腕も組み、そこまでしてようやくラティエシアに視線を返してきた。

 いよいよ断罪される――死の恐怖に震えが止まらなくなる。

「先ほどの攻撃魔法、人族にしてはなかなかの威力だな。さすがはラティエシア・マクリルア伯爵令嬢」
「えっ……!」

 衝撃的な言葉にラティエシアは思わず声を張り上げてしまった。

「わたくしのことをご存じなのですか!?」
「ああ、もちろん」

 どうして魔王様が私のことをご存じなの!?
 ラティエシアが目を丸くしていると、魔王ウィズヴァルドがにっこりと笑った。恐ろしいと言われている魔族とは思えないほどの親しげな笑顔。胸がとくんと高鳴る。
 ラティエシアはこれから断罪されるかも知れないことも忘れて、その柔和な表情に見入ってしまった。

 しかし金色の瞳を見つめるうちに、ふと心によぎるものがあった。
 魔王様が『なかなかの威力だ』とおっしゃるほどに、私の魔力量は異常なんだ。だからこそ皆から嫌われた。
 魔王様もきっと、心が揺れただけで魔法を発動してしまう私なんて軽蔑するに違いない。

 いつの間にか、深くうつむいていた。まばたきをすれば目に溜まっていた涙がまつ毛に乗る。
 目尻を指先で払って涙をごまかしていると、魔王が立ち上がる気配がした。足音が聞こえてきて、目の前で立ち止まる。
 驚いて顔を上げる。すると魔王はどこか申し訳なさげな顔をしていた。

「いつまでも立たせたままにしてしまってすまぬな、ラティエシア嬢。席を用意しよう」

 と言って再び魔王が指を打ち鳴らす。
 すると少し離れた場所にテーブルセットが出現した。
< 5 / 18 >

この作品をシェア

pagetop