婚約破棄された上に魔力が強すぎるからと封印された令嬢は魔界の王とお茶を飲む
 王城の庭にあるような豪華な円卓、そして向かい合わせに置かれた二脚の椅子。テーブルの上にはアフタヌーンティースタンドがあり、それぞれの段にはティーフードが綺麗に並べられている。そのそばには上品なティーカップとティーポットが置かれていた。

 魔王がゆっくりとラティエシアに歩み寄ってきて、手を差し出してくる。
 ラティエシアは混乱したまま魔王の手を取った。丁寧な扱いに胸が高鳴る。

 戸惑ううちに、テーブルにまで導かれる。
 背後で魔王が椅子を引く。
 ラティエシアは、恐れ多さにうつむきながら腰を下ろした。


 魔王ウィズヴァルドが向かい側に腰かけた直後、ティーポットがひとりでに浮き上がった。ラティエシアと魔王、それぞれのティーカップに紅茶を注いでいく。花に似た甘い香りが漂い出す。
 目の前で繰り広げられる光景は、おとぎ話のワンシーンのようだった。ラティエシアは、健気に頑張っている風にも見える茶器の動きについ見とれてしまった。

「召し上がれ」

 魔王が笑顔でうながしてくる。
 ラティエシアは身に余る厚遇に恐縮し、小声で「いただきます」と告げてからカップを口に運んだ。

「……!」

 魔王に出された紅茶を口に含んだ瞬間、感動のあまり声が出そうになってしまった。ぐっと唇を引き締めて茶を飲み込む。その味は王城で出される茶とは比べものにならないくらい美味しかった。ふわりと広がる優しい香りに、こわばっていた心が解きほぐされていく。

「とても美味しいです、魔王ウィズヴァルド様」
「ならばよかった。これは我の気に入りの茶なのだ。そなたのお気に召して何よりだ」

 と言って目を細める。
 ほっとしたような、穏やかな微笑み。ラティエシアがその柔らかな表情に見入っていると、魔王が茶を口にし始めた。
 満足げな顔をして軽くうなずき、カップをソーサーに戻してから視線を投げかけてくる。

「ときにラティエシア嬢。我を呼ぶ際に『魔王』と付けずともよい。名も長くて呼びづらかろう。我のことは気軽に『ウィズ』とでも呼ぶがよい」
「――!?」
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