恋を知らない恋愛小説家は、イケメン担当者と疑似恋愛をする
「では早速ですが、疑似恋愛の第一歩として、まずはデートをしてみませんか?」

 月森さんの提案に、私の心臓がドクリと跳ねた。

「え、デートですか…?」
「はい。恋愛小説において、ヒロインとヒーローが2人きりで出かける場面は多いです。シチュエーションは多岐に渡りますので、先生が書きたい場面に合わせて、色々な場所に行きましょう。そしてそこで得た感情を、そのまま小説に落とし込んでみる。まずは、これでどうでしょう?」
 
 月森さんの真剣な眼差しに、私はごくりと唾を飲み込んだ。

 仕事のため、仕事のため…。

 そう自分に言い聞かせるが、心臓がドキドキと鳴りやまない。

「あの、でも、その…私、デート服とか持ってなくて…」
 
 私は焦ってそう言った。手持ちの服は、どれもこれも仕事用の無難なものばかりだ。

「大丈夫ですよ。何も無理して気取った格好をする必要はありません。いつもの先生で十分ですから」

 そんな殺し文句、ずるすぎるだろうか。月森さんの言葉に胸が締め付けられるような甘酸っぱい感情が湧き上がってくる。

「…わかりました。頑張ります」
「ありがとうございます。では、来週の土曜日はどうですか?」
「あ、はい!空いてます!」

 思わず食い気味に返事をしてしまった私に、月森さんは楽しそうに笑う。
 
「じゃあ、待ち合わせ場所は駅前で。11時頃に集合でどうでしょうか?」
「大丈夫です」

 こうして、私たちは疑似恋愛の第一歩として、初めてのデートをすることになった。
 
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