調香師の彼と眼鏡店の私 悩める仕事と近づくあなた
 紗奈が更衣室から出ると、高橋がすでに準備を始めていた。

「私、レジの立ち上げしちゃいますね」
「あぁ」

 高橋は紗奈に目もくれず陳列棚のチェックをしている。紗奈は作業をしながら高橋に話しかけ続けた。

「そういえば、来月から『初来店キャンペーン』始まりますね。高橋さんが以前いらした店舗って、毎年このキャンペーンでの売り上げがすごく良いって聞きました。どんなことをされていたんですか?」

 紗奈の言葉に高橋が作業の手を止める。紗奈の方から前の店舗の話を聞くのが初めてだからだろうか。少し驚いたような顔をしていた。

「そうだな……そもそも大型スーパー内の店舗だったから新規の見込み客が多かったってのが大きいけど、結構独自の売り込みをしてたな。このキャンペーンって、初回購入限定二割引きが目玉だろ? だから予算を聞いて、いつもなら手が届かないような価格帯も積極的に押していたな。品質は間違いないし、安価で試せれば、次回も同じシリーズにする客も多いから」

 高橋は驚きつつ真剣な回答をしてくれている。紗奈はその意見を頷きながら聞いていた。

「それはうちでも真似出来そうですね。ただやっぱりこの店舗は新規客自体が少ないから、どこかで別に宣伝すべきかもしれません」
「確かになー。この店舗の新規客は既存客からの紹介が多いし、短期キャンペーンの場合は、そこを強化する方が効果的だろう」

 高橋の考えはもっともだ。紗奈は考えを巡らせる。

「お客様にはお店をやっていらっしゃる方も多いですから、宣伝チラシを置いていただけるか相談してみる、とかはどうでしょう?」
「ありじゃないか? 特に亀井のお客様なら喜んで協力してくれるだろ。……俺、チラシ案作ってやろうか?」

 高橋からの思わぬ言葉に、紗奈は顔を綻ばせた。

「良いんですか? 是非お願いしたいです!」
「わかった。今週中には作るから、店長に話通しておけよ」
「はい!」

 紗奈はうきうきとした気持ちで作業を再開した。心なしか、高橋も楽しそうに見える。

(やっぱり高橋さんって、こういう戦略考えるのが得意よね。今まで言い方がキツかったから聞き流していたけど、もっと早く相談すれば良かった)

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