調香師の彼と眼鏡店の私 悩める仕事と近づくあなた
 しばらくすると店内の電話が鳴り響いた。近くにいた高橋が出たようだが、様子が少しおかしい。

「え!? 大丈夫なんですか? いや、無理しないでください。こっちの事は気にせず……。はい、承知しました」

 電話を切った高橋は、神妙な顔をしている。

「店長が出勤途中に事故に遭ったって。今病院らしい」
「ええ!? ご無事なんですか?」
「あぁ。車と接触しかけて転んだだけらしい。病院も念のためだって」
「そうですか」

 軽傷のようで少し安堵したが、それでも心配に変わりはない。
 佐々木も不安そうな顔でオロオロしている。

「今日はお休みですか?」
「いや、診察が終わり次第来るってさ。来なくて良いって言ったんだが……」
「来るって聞かなかったんですね」

 高橋がため息混じりに頷く。

(店長って普段は優しいけど、頑固な面があるもんな。あ、もしかして今日のシフトを見て心配だから無理してるんじゃ……)

 今日の午後は高橋、佐々木、そして店長の三名だ。二人きりにさせないようにと考えたのかもしれない。
 紗奈は拳をぎゅっと握った。

「私、店長が来るまで残業します。それで怪我がひどいようなら帰ってもらいましょう!」

 紗奈が宣言すると、佐々木が少しホッとした表情になる。だが高橋は紗奈の決断に眉を下げた。

「いいのか? 折角の半休だぞ?」
「大丈夫ですよ。でも店長がピンピンしていたら帰ります」
「わかった。じゃあ頼む」
「はい!」

 紗奈はすぐに小笠原へメッセージを送った。

『申し訳ありません。仕事が長引きそうです。今日は行けないかもしれません。チケットはご自由に使ってくださって結構です。お時間作ってくださったのに、本当にごめんなさい』
『わかりました。お仕事頑張ってください。よければ終わったら連絡してくれますか?』

 すぐに返ってきたメッセージに反射的に「はい」と返す。
 胸の痛みに気づかないふりをしつつ、急いで業務に戻った。

(接客は二人に任せればいいから、まずは店長の仕事の確認ね。本部への売上報告書作成とシフト作成と……)

 分かる範囲で店長の仕事を確認していく。
 そして店長がすぐに資料が作成できるよう、データをまとめていった。

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