調香師の彼と眼鏡店の私 悩める仕事と近づくあなた
美術館の周りは庭が広がっており、散策出来るコースがいくつかあった。
館内よりも人がまばらで、傾きかけた日が空を赤く染めていた。
「こんなに美術館を堪能したのは久しぶりだな」
「私もです。想像以上に楽しめました」
「亀井さんのおかげ。ありがとう。……それに」
小笠原の足取りがピタリと止まる。紗奈が振り返ると、真剣な表情をした彼がこちらを見つめていた。
「今日は一緒に来られて良かった。亀井さんといると、元気をもらえるから」
紗奈の心臓がドキドキと音をたて始める。小笠原の憂いを秘めた表情に、吸い込まれそうだった。
(勘違いしては駄目よ。小笠原さんは優しい人だから良いこと言ってくれているだけ)
頭の中で自分を叱りつける。そうでないと、余計な言葉が口から出てしまいそうだった。
「わ、私も……小笠原さんにはいつも励まされています」
理性を総動員してそれだけ返すと、彼はほんの少し笑みを浮かべて「嬉しいな」と呟いた。
「実は硝華堂で眼鏡を買う前、別の眼鏡店に相談に行ったんだ。でも、そこでは俺の悩みは理解されなかった。『むしろ瞳を強調して顔で売るべきだ』とまで言われて、眼鏡を買わずに帰ってしまったんだ」
「そんな……ひどい」
初めて聞く話に紗奈の胸がぎゅっと締め付けられる。あまりにひどい接客だ。
「だから本当に、亀井さんの接客に救われたんだ。誠実で、僕の話に耳を傾けてくれる……。あの時からずっと亀井さんが気になっていた。話をするようになってからは、優しくて前を向く強さを持っている亀井さんにいつも力をもらっていて……好きになってしまったんだ。ずっと隣にいたいと思ってる」
小笠原の言葉に紗奈は目を丸くした。
――まるで自分の心を覗かれたのかと思ったからだ。
すぐに返事をしたい。そう思うのに、唇が震えてうまく言葉が出ない。
「わ、私、も……小笠原さんが、好きです。いつも優しくて、でもそれだけじゃなくて、小笠原さんの言葉や香水が私を前向きにしてくれるんです。接客だけが全てじゃないって気づかれてくれたのも、小笠原さんでした。だからこれからもずっと……っ」
小さくか細い声しか出なかったし、支離滅裂だし、最後の言葉は声にならなかった。
それでも彼は優しく紗奈を腕の中に抱き寄せた。
「好きです。付き合ってくれる? 俺はさっきの絵画みたいに、二人で過ごしていきたいと思ってるよ」
「はい。私も、そうしたいです」
「嬉しい……あの日、出会えて本当に良かった」
耳元で甘くささやかれ、紗奈の胸がぎゅっと締め付けられる。
二人はそのまま見つめ合い、そっと口づけを交わした。小笠原の熱がじんわりと紗奈に伝わってくる。
これは夢かもしれない。
紗奈はぼんやりそう思ったが、彼から伝わってくる熱が現実だと告げていた。
館内よりも人がまばらで、傾きかけた日が空を赤く染めていた。
「こんなに美術館を堪能したのは久しぶりだな」
「私もです。想像以上に楽しめました」
「亀井さんのおかげ。ありがとう。……それに」
小笠原の足取りがピタリと止まる。紗奈が振り返ると、真剣な表情をした彼がこちらを見つめていた。
「今日は一緒に来られて良かった。亀井さんといると、元気をもらえるから」
紗奈の心臓がドキドキと音をたて始める。小笠原の憂いを秘めた表情に、吸い込まれそうだった。
(勘違いしては駄目よ。小笠原さんは優しい人だから良いこと言ってくれているだけ)
頭の中で自分を叱りつける。そうでないと、余計な言葉が口から出てしまいそうだった。
「わ、私も……小笠原さんにはいつも励まされています」
理性を総動員してそれだけ返すと、彼はほんの少し笑みを浮かべて「嬉しいな」と呟いた。
「実は硝華堂で眼鏡を買う前、別の眼鏡店に相談に行ったんだ。でも、そこでは俺の悩みは理解されなかった。『むしろ瞳を強調して顔で売るべきだ』とまで言われて、眼鏡を買わずに帰ってしまったんだ」
「そんな……ひどい」
初めて聞く話に紗奈の胸がぎゅっと締め付けられる。あまりにひどい接客だ。
「だから本当に、亀井さんの接客に救われたんだ。誠実で、僕の話に耳を傾けてくれる……。あの時からずっと亀井さんが気になっていた。話をするようになってからは、優しくて前を向く強さを持っている亀井さんにいつも力をもらっていて……好きになってしまったんだ。ずっと隣にいたいと思ってる」
小笠原の言葉に紗奈は目を丸くした。
――まるで自分の心を覗かれたのかと思ったからだ。
すぐに返事をしたい。そう思うのに、唇が震えてうまく言葉が出ない。
「わ、私、も……小笠原さんが、好きです。いつも優しくて、でもそれだけじゃなくて、小笠原さんの言葉や香水が私を前向きにしてくれるんです。接客だけが全てじゃないって気づかれてくれたのも、小笠原さんでした。だからこれからもずっと……っ」
小さくか細い声しか出なかったし、支離滅裂だし、最後の言葉は声にならなかった。
それでも彼は優しく紗奈を腕の中に抱き寄せた。
「好きです。付き合ってくれる? 俺はさっきの絵画みたいに、二人で過ごしていきたいと思ってるよ」
「はい。私も、そうしたいです」
「嬉しい……あの日、出会えて本当に良かった」
耳元で甘くささやかれ、紗奈の胸がぎゅっと締め付けられる。
二人はそのまま見つめ合い、そっと口づけを交わした。小笠原の熱がじんわりと紗奈に伝わってくる。
これは夢かもしれない。
紗奈はぼんやりそう思ったが、彼から伝わってくる熱が現実だと告げていた。