調香師の彼と眼鏡店の私 悩める仕事と近づくあなた
 それから数ヵ月後、紗奈と小笠原は再び美術館を訪れていた。ゆっくりと並んで駐車場を歩いていると、爽やかな風が吹き抜ける。

「おがっ……綾人さん、お仕事大丈夫でした?」
「平気。ちょっと新店舗の構想で揉めたけど、なんとかまとまりそうだから。紗奈は? もうすぐ店長研修なんでしょ?」
「はい! シフトを調整してもらったので他の人に負担がいくのは申し訳ないですけど、頑張ってきます」

 紗奈は店長推薦の話を受け入れ、次期店長としての道を歩み始めていた。
 小笠原もマネージャーになる話を受け入れたが、あと一年は調香師としても働くことを要求したらしい。

 互いの環境が変わっていく中、分かり合える相手がいるというのが紗奈にとっての安定剤となっていた。
 忙しい合間をぬってデートを重ね、以前よりも親密になっていた。

「ところで、さっきから名前呼ぶ時、小笠原って言いかけてるよね? そろそろ慣れてほしいんだけど」
「だって、この間呼び方を変えたばかりだし、ずっと名字で呼んでたから……」
「駄目。ほら練習。呼んでみて」

 隣を歩いていた小笠原に手を絡めとられる。
 紗奈はおずおずと彼を見上げた。

「あ、綾人、さん……」
「はははっ。はい、何でしょう」
「もうっ! からかわないでください。早く館内に入りましょ!」
「はいはい」

 紗奈は歩く速度をあげて、綾人を引っ張った。

(温かい。この手をずっと離したくないな)

「ねえ綾人さん、今度二人で不動産屋に行きませんか? 私、新しい夢が出来たんです」

 紗奈が後ろを振り返って綾人に呼び掛けると、彼は目を丸くした。

「それって……! ちょっと、紗奈!?」
「ふふふっ、詳細はまた後で! 今は美術館を楽しみましょー」

 そして握る手に力を込めるのだった。



 【完】
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