落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜
 俺は書類にサインをし、デービスに手渡す。

「頼む」

「はいっ、お預かりしますっ。では失礼しましたっ!」

 デービスは短髪の頭を深々と下げ、執務室を出ていった。

「はぁ、静かになったな……」

 書類を保管しようと机の引き出しを開けると、ガチャンと瓶のぶつかるような音がした。神殿から貰ってきた小瓶に入った聖水だった。

 そういえば今日はまだ飲んでいなかったな。

 魔物による傷の後遺症に苦しむ俺は、聖水が手放せなかった。
 服用すると少しの間、症状が緩和する。定期的に大聖女様にも治療を施してもらってはいるが、完治することはない。どちらもその場しのぎのようなものだった。

 しかし、この苦しみはずっと背負っていくべきものだと思っている。それが俺の贖罪だからだ。
 首の後ろから背中に続くこの傷跡は、八年前に負ったものだ。
 あの年も、今年と同じように魔物が活発化した年だった。

「母上、湖に行きませんか? スノードロップが咲き始めたらしいですよ」

 俺のこの一言で、大切な人を失うことになったんだ。
 

 フォーレン公爵家の家系では珍しく、膨大な魔力を持って生まれた俺は、三男だったこともあり、魔術師として嘱望される。俺も魔術の勉強は苦ではなかったので、魔術師の道を志すことに決めた。
 十歳の時、魔術師の家系であるゴードン伯爵家に婿入りするという形で、長女フェリシティ嬢との婚約が決まる。

 俺は一年の大半を、母と妹のエリゼと公爵領で過ごしていた。
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