落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜
 私はエリゼの言葉に耳を疑う。
 彼女は唇を噛み締めている。握った手はわずかに震えているようだ。

「ライオネルお兄様にある魔物の傷跡のことはご存知ですか?」

 私が頷くと、それを見て彼女は話を続けた。

「八年前です。母とお兄様が魔物に襲われたのです。母は兄を庇い帰らぬ人となりました。私はまだ幼かったので当時のことはよく覚えていなくて。神殿に入る前、長兄が教えてくれました。ライオネルお兄様は母の死の責任を感じていて、私達家族を守る為には命を投げ打ってもいいと考えているのでは、と。私も薄々感じていましたわ」

「そんなこと……」

 私は言葉に詰まってしまった。

「えぇ。そんなこと間違っています。母の死はとても辛かった。でも、お兄様が責任を感じることはないのです。家族を守る為に命を捨ててもいいなんて、お兄様は残される者の気持ちを理解できていないのですわ」

 エリゼが金色の瞳で真っ直ぐ私を見つめた。とても強い意志が感じられる目だった。

「アイリスにお願いがあるのです。お兄様を救ってくださいませんか?」

「え? 私が救う? 私にそんなことできるわけ……ないよ……」

「いいえ、アイリスといるお兄様はとても楽しそうでした。あんな顔を見たのは久しぶりでしたわ。お兄様はいつも私の事を大切に思ってくれています。私だって同じです。私だって、お兄様が大切です。幸せになってほしいのですわ……」

 そう言った彼女の金色の瞳から、水晶のような涙の雫が流れ落ちた。

「エリゼ……」

 私にはライオネル様を救うなんてことはきっとできないだろう。でも、残された者の哀しみはとても分かる。
 母を亡くし、兄までもなんてなったらエリゼがとても可哀想だわ。
 ……私に、何ができるだろう……。
 私はぎゅっと手を握りしめた。
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