落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜
神殿の裏門に着くと御者の方にお礼を言い、遠ざかる馬車を見送っていた。
ふと市場方面とは逆の、ラヴィーの丘方面に続く道の奥を見た時、白い物が動いているのに気づいた。目を凝らして見ると、モフモフの動物のようなものだった。
え、待って、あれって白い犬じゃない? もしかしてあの男の子の?
その白い動物は丘の方向に走っていく。私は居ても立ってもいられず、追いかけることにした。
ライオネル様にラヴィーの丘に行くことを魔伝言鳩で伝えてから、私は丘の方に走り出した。
爽やかな香りが漂うエルダーフラワーの連なる小道を抜けると、少し開けた高台に到着する。
辺りを見回してみると、草むらに顔を突っ込んでモフモフの白い尻尾をフリフリさせている犬を発見した。
あ、いた! でも急に近づいたらびっくりして逃げちゃうかも。どうしよう……。そうだわ!
私は手提げ袋から、アンディさんにいただいたビスケットを取り出す。おやつで釣ろう。私は身を屈めながらゆっくりとワンちゃんに近づいた。
「ジャック」
そう呼ぶと白い犬は草むらから顔を出し、両耳をピンッと立てる。名前に反応したってことは、やっぱりこの子があの男の子のワンちゃんね。
「おいで、怖くないよ」
私はビスケットを持った手をジャックの前に出した。ジャックはしばらく鼻をクンクンさせて警戒していたが、おもむろにビスケットを食べ始める。
私は頭を撫でてから、ジャックの警戒心が薄れたところで抱き上げた。
「ふふっ、確保。ジャック、もうはぐれちゃダメだよ〜」
ジャックはフンフンと辺りの匂いを嗅いで、私の顔を舐めた。
「わっ、わっ、くすぐったいってっ。とりあえず、神殿に帰ろっか」
神殿からこの場所までは一本道だから、魔伝言鳩を聞いてこちらに向かってくれていれば、途中でライオネル様に会えるだろう。
その場を後にしようとした時、どこからかクチャ、クチャと気味の悪い音が聞こえてきた。
「ん? 何の音?」