落ちこぼれ見習い聖女は、なぜかクールな騎士様に溺愛されています?〜これ以上、甘やかされても困ります〜
 ジャックがくぅと鼻を鳴らし、小刻みに震え始める。

「え? どうしたの!? 大丈夫!?」

 クチャ、クチャ……。
 その不気味な音は段々とこちらに迫ってくる。
 後ろに気配を感じて振り返ると、見たこともない怪異な植物がそこに立っていた。
 その植物は私よりも大きく、赤黒い花の中央部分には穴が開いていて、牙のようなものが並んでいる。その穴が開閉するたびに、クチャと音を立てた。

「まっ、魔物!?」
 
 まずいわ。逃げなくちゃ!
 震える足をどうにか動かし、一歩一歩と後ずさる。魔物に背を向け走り出そうとした時、足に何かが引っ掛かり転んでしまった。

「――痛っ」

 ジャックを抱っこしていたので、手が使えず地面に左肩を打ちつけてしまう。
 私の右足首には、魔物から伸びてきた蔓のようなものが巻き付いていた。そして、ずるずると魔物の方に引きずられていく。

「やっ、ヤダッ」

 片手で蔓を取ろうとするが、ギュッと締め付けられる。必死に地面に生える草を掴み抵抗するが、魔物の方に引っ張られ、とうとう目の前まで連れてこられてしまった。

 魔物の口から、紫色をした長い舌のような物体がペロンと出てきて、その物体が徐々に近づいてくる。

「っ……」

 全身が凍りつき、呼吸も上手くできなくなった。
 このまま魔物に食べられちゃうんだろうか。この子だけでも助けたい。けど、きっと私の後に、この子も食べられちゃうかもしれない。
 私はぎゅっとジャックを抱き締める。瞳から涙が溢れた。

 怖い、怖い……。助けて……。ライオネル様――っ。

 魔物の舌が近くに迫り、私は恐怖で目を閉じた。
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