戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
「俺、皇太子殿下の侍従をしています。カリムです。」

「……イレーネです。」

とりあえず名乗ってみる。

カリムは軽くうなずき、その名を口の中で転がすように繰り返した。

「今日はどこの宿に?」

「それが……宿が取れなくて……」

言葉を濁すと、カリムは目をぱちくりさせた。

「困りましたね、それは。」

「はい……」

夜の冷気が足元から忍び込み、少し肩をすくめる。

街はまだ人通りがあるものの、笑い声や酒の匂いの向こうで、暗がりは深くなっていく。

このまま外で夜を明かすのは、正直怖い。

……いっそ、同じ宿に泊まれたらいいのに。

そんな都合のいい考えが胸をよぎり、すぐに打ち消そうとした。

けれど、その瞬間、カリムが何かを思いついたように目を細めた。

「俺たちが泊まっている宿に聞いてみましょう。」

カリムの言葉に、思わず顔が明るくなる。

「本当ですか?」

「ええ、もし空いていればすぐに」
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