戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
席に腰を下ろすと、すぐにカリムがビールの入ったジョッキを差し出した。

「お疲れでしょう。一杯どうぞ。」

泡が立つ琥珀色の液体から、ほんのりと麦の香りが漂う。

私は両手でそれを受け取り、心の奥が少しだけ温かくなった。

「宿は?」

アレク殿下の蒼い瞳が、まっすぐに私を見た。

「見つからなくて。」

俯きながら答えると、彼は続けて問いを投げる。

「この宿は? さっき聞いていただろう。」

「満室だと断られて。」

自分でも情けないほど小さな声になった。

アレク殿下は何も言わず、手元のジョッキを傾けてビールを一口飲んだ。

そして、あっさりと言い放つ。

「俺のベッドを使うといい。」

思わず顔を上げる。

「アレク殿下はどうするの?」

「俺は仲間と飲み明かす。」

冗談めかした調子ではなく、事実を淡々と述べる声。

その言葉に、胸の奥が妙に温かくなった。
< 22 / 83 >

この作品をシェア

pagetop