戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
しっかりと支える腕の力強さ、鎧の硬さの奥に感じる体温――

すべてが心臓の鼓動を早めた。

アレク殿下は廊下を歩き、ゆっくりと部屋のドアを押し開ける。

ランプの明かりが室内を照らし、そこには少し大きめのベッドが一つ。

白いシーツがきちんと整えられ、柔らかな香りが漂っていた。

そっと私をベッドの上に降ろすと、その手が一瞬だけ髪に触れた。

その動作はあまりにも自然で、けれど胸をざわめかせるには十分だった。

「ゆっくり休め。」

低く穏やかな声とともに、アレク殿下の体が離れていく。

――待って。

気づけば、私は反射的に腕を伸ばしていた。

「待って。」

指先が彼の手首を掴む。

温もりが逃げないうちに、必死で言葉を紡ぐ。

「行かないで。」

やっと捕まえた人。

あの日、炎に包まれた町から私を救い出し、自由をくれた人。

私はその背中を追って、馬車で隣国まで来たのだ。
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