戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
大きく温かい掌が、髪を優しく撫でる。

その様子を見ていた周囲の騎士たちは、皆どこか含み笑いを浮かべている。

――きっと、昨夜アレクに抱かれたのだと思っているのだろう。

胸が少し熱くなるが、否定する気にはなれなかった。

「イレーネ。お前も我が城に来るか。」

アレクが差し出した手は、朝日を受けて力強く輝いていた。

「……はい。」

迷いはなかった。

私はその手をしっかりと握り返す。

その瞬間、心の中で何かが音を立てて開いた。

――私の運命が、いま始まったのだ。

アレクは当然のように私を自分の馬の前に乗せ、その大きな腕でしっかりと支えた。

馬の背がゆっくりと動き出し、朝の冷たい風が頬をかすめる。

やがて街の中へ入ると、通りにいた人々が次々とこちらへ顔を向けた。

「あっ……!」と小さな驚きの声が上がり、やがて笑顔が広がっていく。

「皇太子殿下!」

「アレクシオン殿下!」
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