戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
「濡れても…いい?」

意味が掴めず、首を傾げる。

――何をするのだろう。

胸に小さな不安を抱えながら、私は言われるまま着替え、ラディアの背に続いた。

やがて辿り着いたのは、蒸気が立ちこめる大きな部屋だった。

水音と温かな湿気が肌を包む。

「ここは…?」

「お風呂場よ」ラディアは振り返り、微笑んだ。

「皇太子殿下のお身体を洗って差し上げるの。」

「えっ……」

思わず足が止まった。

頭の中で、昼間のアレク殿下の姿と、これからの光景が重なり――

心臓が、ひどく早く打ち始めた。

「ほら、来られたわ。」

ラディアに促され、視線の先を見た瞬間、息を呑んだ。

そこには、湯けむりの中に立つアレクがいた。

「皇太子殿下、今日からイレーネも一緒です。」

「……ああ。」

低い返事とともに、アレクはちらりと私を見やり、湯のほとりの小さな椅子に腰を下ろした。

濡れた黒髪が首筋を伝い、鍛え抜かれた胸と腕に滴が光る。
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