戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
自分の部屋に戻ると、堰を切ったように涙が溢れた。

胸の奥がじんじんと痛い。息をするのも苦しい。

そんな私の傍に、静かに歩み寄ってきた影があった。

侍女頭のマリアだ。

「どうしたの? 辛い事でもあったの?」

その声音は優しく、思わず縋りたくなった。

「……ラディアは、皇太子殿下の恋人なんでしょうか。」

自分でも震えているのがわかる声で、ようやく問いを口にする。

マリアはしばし黙り、やがて小さくため息をついた。

「あの二人の関係を……見てしまったのね。」

私はうん、と頷く。胸の奥に、言葉では表せない重みが沈んでいく。

「ラディアは恋人ではないわ。でも、貴族出身のれっきとした女官よ。皇太子殿下のお情けを頂いて……お子を産んでもおかしくないわ。」

その言葉が、冷たい刃のように胸に突き刺さった。

聞きたくなかった――けれど、耳から離れない。
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