戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
そんなことを自分に言い聞かせながら、この日も鍛錬場へ向かった。

アレク殿下は、鎧を纏った騎士たちと共に実戦さながらの稽古をしていた。

鋭い剣戟の音と、掛け声が響く中、殿下の動きは誰よりも速く、力強い。

――やはり、この人は戦場で生き抜いてきた人。

そう見惚れていた瞬間だった。

ドサッ――。

重い音が鍛錬場に響き、アレクが膝から崩れ落ちた。

「アレク殿下!」

思わず駆け出していた。

胸の奥で、理性よりも早く何かがはじけた。

「イレーネ!」

強い力で腕を掴まれ、私は思わず振り返った。

カリムの手だった。

「行ってはダメです!」

低く抑えた声だが、その眼差しは鋭く、拒絶の意思を突きつけてくる。

「どうして?」

息を詰める私に、カリムは短く答えた。

「戦場では一人だからです。誰も助けに来ない。」

その一言に、背中を冷たいものが這い上がった。

――あの人は、そんな孤独の中で戦ってきたのだ。
< 40 / 83 >

この作品をシェア

pagetop