戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
アレクが騎士団長と笑い合う。

その笑顔は柔らかく、陽光のように周囲を包み込む――だけど、私の心は苦しかった。

あの笑顔を、私だけのものにしたい。

他の誰にも向けないでほしい。

すると、鍛錬場の中央で剣を納めたアレクと視線が合った。

一瞬だけ、時間が止まったように感じる。

「イレーネ。」

その声は鍛錬場の喧噪をすべて消し去るほど、まっすぐ私に届いた。

アレクがゆったりと歩み寄り、汗を光らせた額と首筋が陽光に映える。

穏やかな笑顔が、その厳しい鍛錬の空気を和らげた。

「見てたのか?練習を。」

低く落ち着いた声。

「……はい。」

私の返事に、アレクはふっと目を細め、照れたように口角を上げた。

「さっき倒れたことは、見なかったことにしてくれ。」

その笑顔は、まるで私だけに向けられた贈り物のようだった。胸が高鳴る。

「でも……」

言葉を選びながら、熱を帯びた視線を彼に向ける。
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