戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
その時、庭の奥から鋭い音が響いた。

夜気を裂くような剣の振り音に、胸が高鳴る。

恐る恐る覗き込むと、月明かりに浮かび上がる背中があった。

汗に濡れた髪を振り乱し、何度も剣を振り下ろすアレク。

こんな夜更けまで、誰に見せるわけでもなく、ただ黙々と練習している姿に息をのむ。

私は気づかれぬようにそっと近づいた――その瞬間。

「誰だ!」鋭い声とともに剣が止まり、振り返った瞳が私を射抜いた。

氷のように冷たい視線に、足がすくむ。

敵を見据えるその目は恐ろしく、言葉が出なかった。

「アレク……」震える声で名を呼ぶと、彼の瞳はふっと和らいだ。

「なんだ、イレーネか。」

剣を下ろした彼の顔は、さっきまでの険しさが嘘のように優しくて、胸が熱くなる。

「こんな時間にどうした?」

「眠れなくて……」

小さな声で答えると、アレクは自分のマントを脱ぎ、私の肩にそっと掛けた。

「風邪を引くといけない。」

重みと共に伝わる温もりに、胸がじんわりと満たされていく。
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