戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
「アレクも、眠れないの?」

思わず問いかけると、彼は少し驚いた顔をした後、こくりとうなずいた。

「剣を振るった日は、体が冴えてね。」

月明かりに照らされる横顔は、戦場の男の厳しさを宿しながらも、どこか疲れを隠しきれない。

――この人は、どれだけ戦えば気が済むのだろう。胸が締めつけられる。

私は小さく息を吐き、思い切って一歩踏み出した。

「イレーネ?」

不意に近づいた私に、彼は戸惑いを見せる。

けれど、私はもう引き下がれなかった。そっとその胸に身を寄せる。

「こうしていると、気が休まるでしょ。」

次の瞬間、彼の手から剣がガシャンと音を立てて落ちた。

力強い腕が迷いなく私を抱きしめ返してくる。

その温もりに全身が包まれて、心臓が跳ねた。

「イレーネ、俺は……」

震える声が耳元をかすめる。

「……何も言わないで。」

私はそっと囁き、彼の胸の鼓動に身を預けた。

言葉よりも、この抱擁が雄弁にすべてを語っていた。
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