戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
その時だった。

「大丈夫ですか? 殿下!」

騎士の慌てた声が響いた。振り返ると、アレクが壁際に下がり、剣を手放していた。

「アレク!」私は駆け寄る。

「……ああ、大丈夫だ。」

彼は努めて平静を装っていたが、右手の指先から赤い血が滲み出ていた。

「どうしたの?」

息を呑んで問いかけると、アレクは視線を逸らし「かすり傷だ」と言う。

けれど、その声が少し震えていた。

「大変……!」

私は慌ててポケットから、いつも忍ばせていた小さなコットンとテープを取り出す。

そっと彼の手を取ると、滲む血に心が痛んだ。

「こんなに大げさにしなくてもいいのに。」

アレクが困ったように笑う。

「いいえ。黴菌が入るといけませんから。」

口ではそう言いながら、胸の奥はきしむほどに切なかった。

彼が傷を負うたびに、心がちぎれてしまいそうになる――。
< 49 / 83 >

この作品をシェア

pagetop