戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
「本当に大丈夫だ。戦場ではこんな傷、いつもだ。慣れている。」

アレクは平然を装っていたが、血のにじむ指先を見て、私は堪らずその手をぎゅっと握りしめた。

「いっ……痛い!」

思わず声を上げた彼は、慌てて指を振りほどく。

「ほら、慣れてないじゃないですか。」

私が口を尖らせると、アレクは苦笑しながら言い返した。

「イレーネが力任せに握るからだろ。」

今度はそっと、彼の指を掴み直す。血を押さえながら、胸の奥から言葉が漏れた。

「……慣れるくらい、傷を負ったら嫌です。」

ちらりと顔を上げると、アレクが静かに私を見つめていた。ふっと柔らかな笑みが浮かぶ。

「そうか。……ああ、気を付けるよ。」

その笑顔に、胸の奥が温かくなった。

戦場に立つ彼を思えば心配は尽きないけれど、こうして約束してくれるだけで、少し救われる気がした。
< 50 / 83 >

この作品をシェア

pagetop