戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
ふと視線を感じて振り返れば、カリムが人混みの中でじっとこちらを見つめていた。

固く結んだ唇が、何かをこらえているように見えた。

「ありがとう、大切にするね。」

胸元で光る真珠に指先をそっと触れる。

私の声は自然に弾んでいた。

幸せが胸いっぱいに広がって、周囲のざわめきすら遠くに感じられる。

「全く、恋する乙女は無防備と言うか。」

隣でカリムが茶化すように呟いた。

「シー!」

慌てて人差し指を唇に当てる。顔が熱くなって仕方がない。

「ん?恋?」

アレクが不思議そうに眉を寄せ、じっと私を見つめてきた。

「恋してるのか?イレーネ。」

――その一言で、胸の奥がひやりと冷たくなった。

もし本当に意識しているなら、わざわざそんなことを聞くはずがない。つまり彼にとって私は、ただの……。

ああ、私ばかり浮かれて、なんて虚しいのだろう。
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