戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
カリムの声には誇らしさが滲んでいた。

「へえ、それが普通なの?」

「いえ。本来なら国王だけです。……ですが、皇太子殿下は人気が高い。民にとって、身近で頼もしい象徴なんですよ。」

その言葉に私は納得した。人々が自然と見せる笑顔。

それはアレクという人柄に惹かれてのものなのだ。

でも――私は彼と一緒にいることはできない。

そう自分に言い聞かせながら、アレクが抱き上げている子供にそっと笑いかけた。

無邪気な瞳が私を見上げ、心の奥がじんと温かくなる。

「イレーネは、子供が好きなんですか?」

隣のカリムが、探るように問いかけてくる。

「う、うん。好きだよ。」

私は頷いた。子供といると、心が軽くなる。

身分や責務なんて関係なく、一緒に無邪気になれるから。

「じゃあ、皇太子殿下の隣に行ったらどうですか?」

カリムがからかうように促す。
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