戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
やがてアレクは剣を収め、額の汗を袖で拭った。

その時、ふいに私の存在に気づいて目を細める。

「ああ、イレーネ。」

名前を呼ばれるだけで心臓が跳ね上がる。

彼にとってはただの声掛けでも、私には甘美な呼吸のように響いた。

「今日も練習しているのね。」

私が声をかけると、アレクは軽く息を整えながら頷いた。

「ああ。やらないと体がなまるからな。」

そう言って見せた笑顔は、戦場で剣を振るう厳しさとは正反対の、穏やかで優しいものだった。

胸の奥がじんわりと熱を帯びる。

「そうだ、イレーネに渡そうと思って。」

不意にアレクは壁際へ歩み寄り、そこに置いてあったものを手に取った。

それは、小さな花束だった。

鍛錬場の側に咲く野の花を、丁寧に束ねたもの。

「これ……」思わず声が震える。

「鍛錬場の側に咲いていた花だ。イレーネに似合うと思って。」
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