戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
唇が離れると、私は耐えきれずにアレクの胸へと顔を埋めた。

彼の鼓動が耳に響き、汗と花の香りが混ざり合って、どこか懐かしい匂いがした。

「平和って、こういうことなのかな。」

アレクの低い声が頭上から降り注ぐ。

その言葉は不思議と胸にしみて、涙が滲んだ。

戦いのために鍛錬を重ねる彼が、こうして束の間の静けさを「平和」と呼んでくれる。

私の存在が、彼にとって安らぎになれているのだろうか。

そう思うと、こみ上げるものを抑えられなかった。

「アレク……」

小さく名を呼ぶと、彼の腕が強く私を抱きしめた。

そのぬくもりに包まれて、ほんのひとときでも永遠に続けばいいと願わずにはいられなかった。
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