戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
「あーあ……」

庭園に出ると、夜風が頬を撫でた。

月明かりに照らされて、白い花が静かに咲き誇っている。

アレクは――あの花を私にくれた。

そして、あの温もりと、キスまで。

(それなのに……どうして私は許されないの?)

胸の奥が張り裂けそうで、気づけば頬を伝う涙。

袖で拭おうとしたとき、背後から人の気配がした。

「……誰?」

慌てて振り返ると、月影の中から現れたのは――カリムだった。

「カリム……」

思わず名前を呼ぶと、彼は何も言わず隣に腰を下ろした。

「なんで泣いてるの。」

低く、けれど優しい声音。

言えない――そんなこと。

皇太子殿下への想いなんて、誰にも。

ただ沈黙する私を見て、カリムは静かに目を細めた。

「……皇太子殿下がお姫様と踊ってるから?」

その言葉に、心臓が強く跳ねた。
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