戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
「そんなの、政略的に踊ってるだけだろ。」

カリムの声は冷静で、けれど私を気遣う響きがあった。

分かってる。

分かってるけれど――。

「だって……私はアレクと踊れない。」

唇が震えて、声も涙も抑えきれなかった。

どんなに頑張ったって、私はアレクの隣に立てない。

「ううっ……」

嗚咽が漏れる。胸が苦しい。

アレク、私は……こんなにも、あなたが好き。

「泣くな! イレーネ。」

不意に、カリムの大きな手が私の頬を掴んだ。ごしごしと乱暴に涙を拭う。

その不器用な仕草が、逆に温かくてまた涙が込み上げる。

「そんなに好きなら――もう、好きだって言ってしまえ!」

「えっ……」

思わず顔を上げると、月明かりの下、カリムの瞳が強く私を射抜いていた。

「言ってどうするの?」

私はカリムに問う。声は震えていた。

「振られてくるんだよ!」

即答するカリム。
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