戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
気づけば立っていたのは、アレクの私室の前。

「どうして、私……」

扉を見上げると、心臓がうるさく跳ねる。

入るべきではない、分かっているのに。

けれども、あの笑顔を他の誰かに向けていたのが悔しくて、せめて今だけは、彼の傍にいたかった。

意を決して、そっとノックする。

声は返ってこなかった。

胸が冷たくなっていく――やっぱり、まだミーシャ姫と一緒にいるんだ。

それでもどうしても諦めきれず、私は静かに扉を押し開けた。

アレクの私室。そこにあるもの一つ一つが、彼の気配を宿している。

視線の先に、椅子に無造作にかけられたマントがあった。

「アレク……」

そっと手に取ると、落ち着いた香りが鼻をくすぐる。

包み込まれるような、大人の男の匂い。

胸が熱くなり、思わずそれを羽織ってみた。

長すぎて、裾が床を擦った。

まるで自分がドレスを纏っているようで、思わず笑ってしまう。
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