戦火に散った町娘は、敵国の皇太子に奪われて
「……私もドレスを着れば、アレクと踊れるのかな。」

足が自然に動き出す。舞踏会で見たステップを思い出しながら、ひとりでくるりと回った。

虚しいほど静かな室内。

けれど、想像の中ではアレクが手を取ってくれる。

「殿下……」

つぶやいた瞬間、胸の奥から涙があふれそうになった。

「もう終わりか?」

ドキッとして声のする方を振り向いた。

「アレク……」

入り口に背を預け、月明かりを背負ったアレクが私を見ていた。

「あの……」

慌ててマントを椅子に戻し、私は縮こまるように頭を下げた。

「ご、ごめんなさい。私……」

言葉の続きを探す前に、腕を掴まれた。

「踊りたいのか? 俺と。」

顔を上げた瞬間、月の光に浮かび上がる彼の横顔が美しすぎて、息が止まる。

「……じゃあ、踊ろうか。」

アレクは静かに片手を差し出した。

その仕草が、まるで舞踏会の一幕のようで。
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