私の居場所は、先生の隣!
 だけど先生は詮索するようなことは言わず、視線を少し外した。

 「……ここに来たことは、誰にも言うな。俺の立場もある」

 「……はい」

 短く返すと、先生は机の端に置かれた湯飲みを手に取った。

 まだ温もりの残る湯気がゆらゆらと揺れている。

 「少し休め。帰る時間になったら駅まで送る」

 「!」

 帰る……。

 その言葉に、胸がきゅっと締めつけられた。

 帰ったらまた、同じ日常が待っている。

 それが分かっているから、ここに来たのに……。

 「……帰りたく、ないです」

 「…………」

 思わずもれた言葉に、先生の手が止まった。

 先生の黒い瞳が、まっすぐに私を射抜いた。

 叱られるかと思ったけれど、先生はただ静かに私を見つめていた。

 「……俺の立場云々の前に、男の部屋に遅くなってから訪ねて来るのは、危険な事だ。
  
  まして、帰りたくない……などと言うのは誤解を生む」

 「…………別に、もうどうでもいいです」

 「…………」

 今度は私が真っ直ぐに先生の瞳を見つめた。

 「……じゃあ、もう少しだけだ」

 「…………」

 その一言に、肩の力が抜けた。

 先生は私の対面に座った。

 「……で、何があったんだ?」

 「…………」

 先生は真面目に私の話を聞こうとしてるのが分かる。

 でも……どう話していいのか分からない。

 クラスで無視されてる事だけじゃないし、家での居場所のない事だけでもない。

 そうなった原因が……私がどうしていいか分からない事だから。

 説明のしようがない。

 話した所で、分かってはもらえないと思う。

 「…………あの‥‥」

 「…………」

 黙ったままの私を睨む。

 怒られるかと思ったけど、先生は何も言わずに待っていた。
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