私の居場所は、先生の隣!
 実習最終日。
 

 皆川先生は黒板の前に立ち、クラスに向かってゆっくりとお辞儀をした。

 その顔は、あの日初めて教室に現れたときとは全く違っていた。

 無表情で、どこか遠くを見ていた目が、今はまっすぐにクラス全員を見渡している。

 板書する手も、声の響きも、どこか自信に満ちていて……生き生きとしている。

 拍手が起きる。

 前の席の子たちが『ありがとうございました!』と声を揃える。

 その中で、私は手を叩きながらも、胸の奥が冷たく沈んでいくのを感じていた。

 ……置いていかれた。

 そう思った瞬間、笑顔がうまく作れなくなった。

 先生が変わっていくのを嬉しいと思う反面、そこに私の姿はもうない。

 あの日、何も持たずに坂を駆け上がった私を受け入れてくれた部屋も、あの静けさも、もうすぐなくなってしまう。

 みんなの視線は、これから遠くへ行く先生に向かっている。

 私だけが、その背中を見ながら、大切な自分の場所が消えていくような気がしていた。

     ――――

 私は引っ越しを手伝う事になった。

 と、言っても荷物はほとんどない。

 かさばる……と、言うより重いのは本がほとんど。

 「…………」

 ダンボールにしまいながら、思い出の物がどんどんなくなっていくのを見るのが悲しい。

 でも、悲しい顔は見せられない。

 「…………」

 だけど……。

 もう無理。

 「先生!」

 持っていた本を床に落とす。

 「私……その‥‥先生が……いなくなると……また、一人になって‥‥」

 ずっと我慢してきた涙が噴き出した。

 もう止める事なんて出来ない。

 先生に抱き着いてた。

 涙が先生のシャツに吸い込まれていく。

 「……陽菜」

 先生はちょっとだけ迷ってから私に腕を回してきた。

 「ごめんなさい!……でも、でも……」

 「…………」

 何かを言おうとしたのが、胸の動きで分かった。

 でも何も言わない。

 黙って私を抱きしめてる。
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