亡国の聖女は氷帝に溺愛される
「ああ。セシルはノクスルーネという領地を治めている。領主は領地を何日も留守にすることはできないからな」

「ノクスルーネ……それは遠いのですか?」

「近くはないな。ノクスルーネは帝国一果実の実りがよい、水と緑の地だ」

 ヴィルジールは皿の隅にある赤い丸い実にフォークを突き刺すと、目線の高さまで上げた。

「このセーブの実がノクスルーネ産だな。野菜の類に入るが、果物のような口当たりだ」

 ルーチェはヴィルジールの手元を見てから、自分の皿にも視線を落とした。丸く赤いそれは、親指と人差し指で作る輪っかくらいの大きさだ。

「それはヴィルジールさまのお好きな食べ物ですか?」

 ルーチェの質問に、ヴィルジールは意外そうな顔をした。

「嫌いではないが……特別好きというわけではない」

「でしたら、何がお好きなのですか?」

 質問の意図が分からないというふうに、ヴィルジールが怪訝そうに眉を寄せる。

 ルーチェは顔を綻ばせながら、セーブの実にナイフを入れた。

「以前、ヴィルジールさまも同じことを訊かれたではありませんか。特別美味しいと感じた味は何か、どんな色が好きか、好きな花の品種は何かと」

「それは……記憶を失う前のルーチェを知るために、必要だったからだが」

 言いながら、ヴィルジールは目をしばたたかせていた。何でこんなことを言わされているのかとでも言いたそうだ。
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