兄弟の溺愛に堕ちて
一真さんの限界ギリギリの表情が、逆に私をそそってしまった。

「……さあ、そろそろ帰ろう。」

彼はそう言って、深く息を吐きながらシートベルトを締め、エンジンをかける。

走り出した車の中、私はさっきまでの熱にぐったりとして、瞼が自然と落ちていった。

「美咲……」

かすかに名前を呼ばれるのを耳にしながら、そのまま眠り込んでしまう。

やがて車内には、私の小さな寝息だけが響いた。

その間も、一真さんはずっと私の手を離さずに握り続けていてくれた。

しばらくしてマンションの前に到着する。私はぼんやり目を覚まし、慌てて服を整える。

「……ありがとうございます。」

車を降りようとしたとき――

ガチャリ、と音がして。

一真さんもドアを開けて、私の後に続いて降り立った。

「……美咲。」

車を降りた私の手を、一真さんがそっと握り取った。
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