根暗な貴方は私の光
愛妹
頭二つほど下にいる少女を見下ろす。零れ落ちそうなほどに大きな瞳を目一杯開いて見上げる様は、愛おしさ以外の感情を抱かせない。
出会ってから十年。気がつけば自分は二十代にまで歳を重ね、目の前にいる少女もまた立派な女性にまで成長していた。
小さく純粋無垢な童女だと思っていた蕗は、今では見違えるほど過去の面影を見せない。
「お誕生日おめでとう、蕗ちゃん! 本当に大きくなったねえ!」
ありったけの愛おしさを込めて小さなその身体を抱き締める。骨張っていて華奢な身体は抱き締めているだけで圧し折ってしまいそうだ。
それでも紬は彼女を割れ物を扱うように抱き締めた。
「おめでとう、蕗ちゃん」
「紬さん、江波方さんもありがとうございます」
一歩踏み出した江波方は蕗の前に膝を折るとぎこちない笑顔を浮かべた。
根暗でほとんど笑うことのない江波方にとっては精一杯の笑顔なのだろう。微かに口角が引き攣っている。
そんな彼の不器用さすら愛おしい。
愛おしい?
「五十鈴さん、そろそろ」
江波方に呼ばれはっと我に返る。すでに立ち上がっていた江波方の顔が目上の位置にあった。
何故だろうか、彼の顔を見ていると自然と笑顔になってしまう。理由など分かるはずもないが、表情が緩むのを感じた。
「ええ、そうですね」
緩む表情を誤魔化すように微笑みを浮かべて紬は頷く。これまでに何度か江波方に話をはぐらかされたり誤魔化されたりしたが、紬は彼と違って誤魔化すのは得意であった。
過去に何度も自分自身を偽り誤魔化してきたからこそ癖のようになっていた。
母が精神を病みおかしくなってしまった時も、親友との別れの時も紬は嘘を吐いた。
誰かに嘘を吐いたわけではない。自分自身を現実から守るために吐いたのだ。
「おめでとう」
芝の柔らかく優しい声が聞こえる。鏡子と芝が並ぶとまるで我が子を見守る夫婦のように見えた。
最も、二人にそんな気があるわけでないのがそうなのだが。それでも紬にはそれなり関わることができる二人が羨ましかった。
紬にもあの二人のように距離を縮めたいと考えている人物がいる。
けれど、未だ一歩を踏み出せないでいるのである。
出会ってから十年。気がつけば自分は二十代にまで歳を重ね、目の前にいる少女もまた立派な女性にまで成長していた。
小さく純粋無垢な童女だと思っていた蕗は、今では見違えるほど過去の面影を見せない。
「お誕生日おめでとう、蕗ちゃん! 本当に大きくなったねえ!」
ありったけの愛おしさを込めて小さなその身体を抱き締める。骨張っていて華奢な身体は抱き締めているだけで圧し折ってしまいそうだ。
それでも紬は彼女を割れ物を扱うように抱き締めた。
「おめでとう、蕗ちゃん」
「紬さん、江波方さんもありがとうございます」
一歩踏み出した江波方は蕗の前に膝を折るとぎこちない笑顔を浮かべた。
根暗でほとんど笑うことのない江波方にとっては精一杯の笑顔なのだろう。微かに口角が引き攣っている。
そんな彼の不器用さすら愛おしい。
愛おしい?
「五十鈴さん、そろそろ」
江波方に呼ばれはっと我に返る。すでに立ち上がっていた江波方の顔が目上の位置にあった。
何故だろうか、彼の顔を見ていると自然と笑顔になってしまう。理由など分かるはずもないが、表情が緩むのを感じた。
「ええ、そうですね」
緩む表情を誤魔化すように微笑みを浮かべて紬は頷く。これまでに何度か江波方に話をはぐらかされたり誤魔化されたりしたが、紬は彼と違って誤魔化すのは得意であった。
過去に何度も自分自身を偽り誤魔化してきたからこそ癖のようになっていた。
母が精神を病みおかしくなってしまった時も、親友との別れの時も紬は嘘を吐いた。
誰かに嘘を吐いたわけではない。自分自身を現実から守るために吐いたのだ。
「おめでとう」
芝の柔らかく優しい声が聞こえる。鏡子と芝が並ぶとまるで我が子を見守る夫婦のように見えた。
最も、二人にそんな気があるわけでないのがそうなのだが。それでも紬にはそれなり関わることができる二人が羨ましかった。
紬にもあの二人のように距離を縮めたいと考えている人物がいる。
けれど、未だ一歩を踏み出せないでいるのである。