アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

Scroll-11:止まったまま

 ヤバ……

 そういや私、【頭の良さ】をいくつにするのか迷ったまま、上げるのを忘れていたかもしれない……ということは、0のままだ……

「じゃ、そろそろ国語に移ろうか。質問ある時は、志帆先生お願いします!」

「お願いします!」

 皆が笑顔で私に頭を下げた。

 ええい、なるようになれだ! アバター★ミーを入れる前から、国語の点数だけは良かったんだから!

 そして国語が始まって5分も経った頃、最初の質問者が現れた。

「志帆先生、この『主人公が最後に後悔したこととは、何でしょうか』って問題、ここ全く意味が分かんないんだけど」

 隣に座っている莉奈ちゃんが、ジッと私を見て聞いた。この距離で見る莉奈ちゃんは、ヤバいくらいにカワイイ。しかも、志帆先生だなんて……

「ああ、そこな。俺もあとで聞こうと思ってたとこだ」

 玲央くんもそう言うと、どんな説明をしてくれるのかと全員が私に集中した。一瞬身構えてしまったが、この問題に関しては理解できている。あとは、上手く説明出来るかどうかだ。

「これの難しいところは、直近には後悔したことが具体的には書かれてなくて、主人公の回想シーンがあったじゃない? えーと確か2ページ前くらいだったかな——」

 私の説明通りに、ページをめくる彼ら。そして私が説明を続けると、「なるほど!」と彼らは大きな声を上げた。

「志帆は人の気持ちなんかが、めっちゃ分かる人なんだろうな。なんなら、気付きすぎるくらいに。そういう人はきっと、国語が得意なんだよ。——で、国語が苦手な玲央はまあ……そういうことだ」

 翔くんのその指摘に、「ん?」と玲央くんは首を傾げた。

「おっ、おい、翔! それじゃまるで、俺が人の気持ち分かんねえ奴みたいじゃねえか! ま、まあ……確かに、莉奈にはそういうとこあるかもしれないけど」

「はあっ!? 怒るよ、あんたたち!!」

「もう! 静かにしなさいよ2人とも。あんまりうるさいと、店追い出されるよ」

 楓がそう言うと、莉奈ちゃんは「べー!」と玲央くんに舌を出した。

 私は人の気持ちが分かる人か……

 うーん。果たして、そうだろうか——


***


 琴音と休憩時間を過ごさなくなってから一週間。だけど、毎朝の通学は変わらず2人で登校している。

 琴音から「もう迎えに行かない」なんて言い出しにくいだろうし、私も来なくていいなんて言いたくない。だけど以前と違って、殆ど会話は無くなっていた。

「最近、学校行く前だけ元気がないよね? 帰ってきてからは元気なのに。どこか体調悪いの?」

 一緒に朝食をとっていたお母さんが聞いてきた。

「そ、そんなことないよ。多分、試験勉強で寝不足なだけだと思う」

「あらあら。でも睡眠不足も良くないよ。勉強も程々にしないと」

「ハハハ……勉強も程々になんて、生まれて初めて言われたかも」

 私がそう言うと、お母さんは「ホントだね!」と笑った。


 いつも私が玄関を開ける時間。今日も琴音は待ってくれているだろうか。そんな思いでドアを開けると、想像もしていなかった光景が目に飛び込んできた。

「お、おはよう、志帆」

「おっ、おはようございます、相川さん!」

 そこには琴音と、漫画を描いているという友達、小池さんがいた。

「お、おはよう……」

「ごめんね志帆、急に2人で来ちゃって……」

「な、なに言ってるの、全然! じゃあ、行こうか!」

 私たち3人は、並んで歩き出した。琴音よりもさらに小柄な小池さん。その小池さんが、琴音に隠れるようにチラチラと私のことを見ている。

「相川さん、日に日にキレイになって、ホント凄いです! 遠くからだけど、毎日見るのが楽しみっていうか」

「ぜ、全然そんなことないよ。——それと、敬語とかいらないよ私に」

「実はね、志帆。日和(ひより)は誰にでも敬語使っちゃうんだって。私も最初、ビックリしたんだけど」

 日和とは小池さんの名前だ。小柄な彼女によく合った、可愛い名前だ。

「ああ、ごめんなさい、いつもそう言われちゃうんですけど、なかなか砕けた話し方が出来なくて」

 そう言って慌てる小池さんを見て、私と琴音は笑った。


「志帆も、日和が漫画描いてるってのは聞いたことあるよね?」

「うん、もちろん。公募とかも頑張ってるんでしょ?」

「そうそう。それがさ……」

 そう言って、琴音と小池さんは顔を見合わせた。琴音に「言っちゃってもいいよね?」と聞かれた小池さんが、うんと頷く。

「こないだね、少年誌の公募で佳作取っちゃったんだって! すごくない!?」

「マジで!? 凄いじゃん、小池さん!!」

 私がそう言うと、小池さんは頬を赤らめて小さく頷いた。


 新しいメンバーで、学校へと向かう私たち。

 どうして琴音は、小池さんも一緒に登校することにしたのだろう。

 私たち2人だけじゃ、会話がままならなかったから……?

 もしかして、私にも友達がいるよっていうアピール? いや、琴音はそんなちっぽけなことをするような子じゃない。

 琴音は今、何を考えているんだろうか。

 私たちの交換日記はいま、琴音のところで止まったままだ。
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