アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

Scroll-25:終わりの始まり

 始業式が終わると、私は職員室に呼び出された。ピンク色に染めた、ヘアスタイルのせいだ。

 私は『Snaps!』に撮影されたこと、そして教室でみんなが驚いてくれたことで、気持ちは充分に満たされていた。次の週末には黒に染めると約束をし、職員室を出た。


「あ……待ってくれてたんだ」

 カバンを取りに教室に戻ると、玲央くんたちが待ってくれていた。てっきり、みんな帰宅したと思っていたのに。

「髪型注意されたのか?」

「——うん。来週には黒色にしてきなさいって」

 私がそう答えると、翔くんがため息混じりに話し始めた。

「そんなの聞き入れる必要ないのに。俺は欠席・遅刻もしてないし、テストだっていつも良い点数取ってる。中学生がやることって、これで充分だと思わないか?」

 私が頷くと、翔くんは続けた。

「そうだろ? そもそも、他の人と髪の色が違うことがダメなのか? それとも、染めるって行為がダメなのか? 隣のクラスの男子、元から髪の毛が明るいからって、黒染めさせられてたじゃん。一体、何がダメなのか教えてくれって。——俺はそうやって、先生を問い詰めてる」

 横で聞いていた楓が「怖い怖い」と呟いた。

 なるほど、そっか……翔くんはこうやっていつも乗り切ってるんだ。


「そういや白石さん、ちょっと痩せてたよね? 志帆に影響受けたって感じなの?」

 莉奈ちゃんが、私に向かってそう聞いた。

「うん、ほんと痩せてたよね。夏休み中は全然会わなかったから、ダイエットしてたのかどうかは、分かんないんだけど」

「えっ!? 全然会ってなかったの? あんたたち、あんなに仲良かったのに。志帆はもう、オタク趣味に飽きちゃったってこと?」

「アハハ、なんて言い方するのよ莉奈ちゃん。確かに、私はもう全然観なくなった——」

 その時、教室の後ろの扉がガタンッ! と音を立てた。

 そこには、胸にカバンを抱えた琴音が立っていた。

「こ……琴音……」

 琴音は(きびす)を返し、足早に教室を出ていった。


***


「なんか、最悪なタイミングで話聞かれちゃったな……」

 翔くんがポツリと言う。

「莉奈ちゃんがオタク趣味だなんて言うから……サブカルって言ってくれたら、少しは響きも違ったのに……」

「そ、そんなの私知らないじゃん。——でもどっちにしても、サブカルってのも観てなかったんでしょ?」

「う、うん……変な言いがかりつけちゃってごめん……」

 私がそう言うと、莉奈ちゃんは静かに首を横にふった。


 その後、私たちはちょっとした撮影会をした。

 私のヘアスタイルを気に入ってくれた莉奈ちゃんが、黒に染める前に写真を撮っておこうと言ったのだ。

「ほらほら志帆、暗い顔しないで笑って!! そうそう!! ——それにしても、翔と一緒に写したら、まるで学園ドラマみたいだね! なかなか、こんな中学生いないよ!!」

 私を差し置いて、テンションが上がっている莉奈ちゃん。

 学園ドラマみたいか……それは私が莉奈ちゃんたちに対して、いつも感じていたことだ。


 その時、校内の火災報知器が、けたたましく鳴り響いた。それと同時に、私のスマホが震える。琴音からのラインだ。

————————————
助けて! 出られない!!
————————————

 琴音!? どっ、どこにいるの琴音……!?

 ラインに返事を入れるが、既読が付かない。

 もっ、もしかして……!

 私は琴音の鍵アカSNSを開いてみた。そこには、一枚の写真と一言のメッセージ添えられていた。

 火を上げて燃える私たちの交換日記と共に、 『さようなら、私の大切な想い出』というメッセージが。画像に写っている備品からして、きっと理科室だ。

「待ってて、琴音!!」

 私は教室を飛び出して、女子トイレに向かった。きっといつもの私じゃ琴音を助けることは出来ない、出来ることはひとつ——

 【ルックス】を0にして、【運動神経】を100にすること。

 私はグルグルに折り返していたスカートのウエストを元に戻し、アバター★ミーの数値を変更した。折り返していないスカートでも、私のウエスト部分はパンパンになった。

 そしてトイレに置いてあった掃除用のバケツに、水をためる。

 早く……早く、いっぱいになって!!


「し……志帆……なのか?」

 慌てて出ていった私を追って、玲央くんたちが女子トイレの前に集まっていた。

 元の姿になっている私を見て、誰も言葉が出ないようだ。

「そ……そうなのっ! 玲央くん、このバケツの水、私の頭からぶっかけて!!」

「な……なに言ってんだよ……い、意味が分かんねえよ……」

「いいから早くっ!!」

 無理やり手渡したバケツで頭から水をかけてもらうと、私は一目散に理科室へと向かった。
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