魔法のピアノ少女・シオン 〜ふしぎなヒーリングの力〜

5. しおんの力



「おーい! 『救いの子』がいるってのはここかー!」


 そのとき、急に声がしてしおんとみどりは振り向きます。
 すると、よろいを着た兵隊さんが2人、こっちへ歩いてきました。
 2人とも傷だらけで、右のひとは足を引きずってしまっています。


「はい! こちらに集まってください!」
 みどりの言葉で、ステージの前の低くなった場所に兵隊さんは座り込みました。


「すみません、今準備をしてます。もう少し待っててください!」

 それだけ言うと、みどりはまたしおんに話しかけます。


「ごめんね、いきなり本番になっちゃうけど。あたしの指示にしたがって、曲を弾いてほしいの」
「指示?」


 ピアノの上には、しおんとともに、この世界へ運ばれてきた楽譜が何枚か置いてあります。



 ***

【絵さがし】

 みどりの指示に当てはまる絵をさがして、正しい楽譜を選ぼう!

 ***



「わかった」
 しおんが選んだ楽譜をみどりに見せると、みどりはにっこり笑いました。正解のようです。
(『救いの子』とか、まだ信じきれてないけど……あんなに頼りにされたら、弾かないわけにはいかない)


「ありがとう。準備をするね」

 みどりはステージを降りて、また何かつぶやきます。


 すると、広場全体が透明なドームにおおわれました。
「何、今の?」
「広場全体に魔法をかけたの。これで、しおんちゃんのピアノは、その効果をとても大きなものにする」


 そうしているあいだにも、続々と兵隊さんたちが広場にやってきました。
 中には、タンカで運ばれてくる兵隊さんもいます。

 そして数分ぐらいで、広場はあっという間にケガした兵隊さんたちでいっぱいになりました。



「ねえ、しおんちゃん。お願いできる?」


 兵隊さんたちに声をかけていたみどりが戻ってきて、しおんの左手をぐっとにぎります。


「本当に、わたしのピアノにそんな効果があるの?」
「……信じてないでしょ」


 また思ってたことを先回りされて、しおんは思わずみどりを見上げます。
 そのみどりの顔は、自信たっぷり。


「ここにたくさん兵隊さんが集まったってことが、みんながしおんちゃんを信じている証拠だよ」

 言われて、しおんはあたりを見回します。
 たくさんの兵隊さんは、みんなケガをしているけど、まじめな顔でしおんの方を見つめています。

(こんな状況でピアノを弾くなんて、初めて)
「ちゃんとした説明ができなかったのはごめんね。終わったら、お礼とかもする」


 みどりは、今度はしおんの両手をにぎりました。
「……それに、あたしもまた聴きたい。しおんちゃんのピアノ」



(……やっぱり、断れない)


 あったかくなっていく気持ちをおさえるように、しおんは胸に手を当てます。


「……わかった」



 そして、しおんはゆっくりと演奏を始めました。



 ***



 とてもていねいに、一音一音まちがえないように気をつけて、しおんは指を動かしていきます。
 ピアノから出ていくやさしい音色は、そよ風に乗って空へ消えていきます。


 黄色い小鳥たちが、ピアノに近づいてきました。
 チュンチュン言いながら、楽しそうに羽ばたいています。


(弾き慣れたピアノなのに、なんかすごい新鮮な気持ち。外でピアノを弾くのも……気分は良いかも)



 ……と、その時。

 ピアノが、光り出しました。


(……え?)
 目をパチパチさせるしおん。でも、やっぱりピアノは光っています。
 ほんのかすかにですが、たしかに緑色に光っているのです。



「……おお、治っていく……」
 すると、そんな声が聞こえてきました。


 しおんが弾きながら顔を向けると、あの最初にここへ来た2人の兵隊さんが立っています。
 そして、しおんはびっくりして目を丸くしました。


 何しろ、2人のよろいにはもう傷がないのです。引きずっていた足も、もとに戻っています。


「すごい……」
「もう痛くないぞ……」


 それだけでは終わりません。
 しおんが弾くメロディに合わせるかのように、寝ていたり座り込んでいた兵隊さんが、1人、また1人と起き上がっていきます。
 まるで初めからそうだったかのように、みんな元気いっぱいです。


「『救いの子』は……いたんだ!」
「これでまた歩けるぞ!」
「『救いの子』、バンザイ!」
「バンザイ!」


 いつのまにか兵隊さんの声はどんどん大きくなり、しおんの演奏をかき消していきました。
 そして演奏が終わると、ものすごい数の拍手がしおんを包みました。


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