魔法のピアノ少女・シオン 〜ふしぎなヒーリングの力〜

6. しおんのおかげで




「ね? あたしの言ったこと、本当だったでしょ? これが『救いの子』の力」


 元気になった兵隊さんたちが去っていくのと入れ違いに、みどりがしおんに近づいてきます。


「……うん」
(信じるしかない。わたしの目の前で、わたしの演奏を聴いた人たちが、元気になった)
 しおんは、自分の両手を、まじまじと見つめます。
 何もおかしなところはない、自分の手。でも、たしかにこの手が、さっき、兵隊さんたちを救ったんだと思うと、しおんはふしぎな気持ちでいっぱいになりました。


「しおんちゃん、もっと自信を持って良いんだよ? これで、取り返しのつかないケガをしちゃって苦しむ人はきっと少なくなるはず。万が一、街が魔物におそわれちゃっても、助けられるかもしれない」


「……でも、どうして?」
「どうしてって?」
「その、なんでわたしだけ……」


 しおんには、まだまだたくさんの疑問が浮かんできます。
 どうして自分にはそんな力があるのか、気になって仕方ありません。


「……ごめん、それはあたしにもわからない。たしかに言えるのは、しおんちゃんが言い伝えどおりの子だってこと。あたしが日本で見た人のなかで、こんな力を持ってるのはしおんちゃんだけ。……きっとこれは、運命なんだと思う」
「運命……」


 運命という言葉を、しおんは心のなかでくりかえします。



「おい、『救いの子』がいるってのはここか?」
「はい、こっちです!」


 その声で振り向くと、傷だらけになった兵隊さんたちがまた、広場の向こうにいました。


「……しおんちゃん、あと数回、お願いできる?」


(運命……それって、もうそういうものだ、ってことだよね)
 兵隊さんたちの傷を治せるのは、自分しかいない。
 ならばと、しおんはまたピアノの前に座りました。



 ***



 それから、兵隊さんたちをピアノ演奏で回復させること、5回。


 いつしか青空はオレンジに変わり、カラスのような鳥が鳴き出しました。太陽も、もうすぐ山の向こうに沈みそうです。

(わたし、今日ずっとピアノ弾いてたんだ……)
 ピアノの練習の時も、休みなしにこれだけずっと弾きつづけるということはありませんでした。
 疲れてきたしおんが、ピアノにもたれかかったその時。



「……しおんちゃん! 本当にありがとう!」


 いつのまにかいなくなっていたみどりちゃんが戻ってきました。
 それはそれはうれしそうな顔です。


「えっ?」
「魔物たちが逃げ出していったの! しおんちゃんのおかげだよ!」


 その勢いのまま、みどりはしおんに抱きつきます。


「今回、魔物たちたくさんいたみたいだし……しおんちゃんがいなかったら、あたしたちやられてた、かも……」


 途中から消えそうになっていくみどりの声は、しおんにとっては初めて聞く声でした。
(みどりちゃん、泣いてる……?)


「……シオン。そなたには、礼をつくしてもつくしきれない」


 今度は長老がやってきて、しおんに頭を下げます。


「そんな、わたしは、いつもと同じように、ピアノを弾いただけです」
「そなたはそうかもしれないが、それが我々にとっては救いなのだ。『救いの子』よ、ありがとう」
「あたしからもしおんちゃん、本当に本当にありがとう。しおんちゃんがいたから、兵隊さんたちもみんな元気なんだよ」


 みどりの後ろには、たくさんの兵隊さんたちが立っています。
 そしてケガしてる人は、ほとんどいません。


「わたしのピアノが、この人たちのケガを……?」
「うん。しおんちゃんは、本当に、あたしたちにとっての希望なの」


 その言葉で、ようやくしおんには、実感のようなものが出てきました。
(信じられない。信じられないけど、本当なんだ。わたしが演奏するピアノには、ふしぎな力がある――)



「……ねえしおんちゃん。ほかにも、何か弾ける?」


「え?」
「あたし、まだまだしおんちゃんのピアノ聴きたいな。長老は?」


「……うむ。気にはなるな」
 言われた長老は、ニッコリとほほえんでしおんを見てきます。


(疲れてはいるけど、もう1曲ぐらいなら)
「みどりちゃん。今度は、どんな曲が良いの?」



 ***

【絵さがし】

 みどりのあたらしい指示にしたがって、また楽譜を選ぼう!

 ***



 しおんはまた、みどりの指示どおり、1枚の楽譜を手に取ります。
 さっきとはちがい、今度はテンポが速くてはげしめの曲です。



「すー……はー……」



 しおんはゆっくりと深呼吸してから、指を動かし始めました。


 いつのまにか空は黒くなり、星の光がかがやいています。
(きれいな夜空だけど……こんな空の下でピアノを弾くの、やっぱり慣れないな)


 と、そんなことをしおんが考えていたそのときでした。


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