魔法のピアノ少女・シオン 〜ふしぎなヒーリングの力〜

7. これからへの決意



「……なんか、すごく力がわいてきた……」


 みどりの声に、長老が近づきます。
「どうしたグリーン?」
「長老は感じない? なんかこう、気持ちがたかぶるというか、気合いがみなぎるというか……今なら、強い魔法も楽に使えそうな……」


 そう言って、腕をぐるぐる回しだすみどり。


「ふむ……そう言われるとたしかに、気持ちに火がついたような……みんなを回復させていたときとは、ちがう効果があるようじゃな」

「だよね! あたしちょっとやってみる!」
 演奏を終えたしおんのとなりで、みどりはステージの横のなにもないところに向かって手を出します。


「神さま、どうかあたしに力を……!」


 みどりがそうさけぶと、まるで遊園地のアトラクションみたいな小さな爆発がおこりました。
 草むらの一部が黒くなり、キャンプファイヤーのように焦げたにおいがしおんの鼻をくすぐります。


「……今の、みどりちゃんがやったの?」
「うん。あたし、火とか、爆発とかの魔法は苦手な方なんだけど……やっぱりこれも、しおんちゃんのピアノのおかげなんだと思う。魔法使いの力を強くする効果とかがあるのかも」


(そんなことも……?)
 ようやく、自分のピアノの力がわかったというのに、またあたらしい事実が出てきて、しおんの気持ちは落ち着きません。



「……ねえ、あたしからお願い」
 そんなしおんの両肩に、みどりはポンと手を置きます。


「これからも、あたしたちのためにピアノを弾いてほしい。兵隊さんを回復させたり、さっきみたいに魔法の力を上げたり……ほかにも、きっとしおんちゃんのピアノにはいくらでも可能性がある」


「え、でも、わたし、日本に戻らないと……」
「あ、それはだいじょうぶ。必要なときは、あたしが魔法で送り迎えする。それに、こっちで少し長く過ごしていても、日本での時間はそんなに進んでない。だから、パパやママに心配をかけることもないよ」


(そんなこと言われても)
 しおんは、自分の呼吸が速くなってることを感じながら、みどりを見上げます。
「……でも、魔物たちと、戦っているんでしょ?」
「うん。……あたしたちは、魔物たちを倒すために、しおんちゃんのピアノが必要」


「……こわいよ」
 しおんの声が小さくなります。


 魔物を見たことがなくても、魔物との戦いで傷ついてケガしたたくさんの兵隊さんを見れば、しおんにも魔物のこわさはよくわかりました。


(もしも、この街に魔物が攻めてきたら)


「……だいじょうぶだよ」
 みどりはやさしい声で、そっとしおんに話します。


「しおんちゃんを、危ない目にあわせることはしない。何があっても、あたしがぜったい守る」


 声はやさしいですが、みどりの顔はとてもとてもまじめです。
(みどりちゃん……本気なんだ)


「長老、やくそくしてくれるよね?」
「もちろんじゃ。シオンよ、そなたの安全はグリーンが守る。こいつはさわがしいところもあるが、強い魔法をたくさん使える。安心しておれ」


「……でも……」
(わたしがこの街にとって必要なのは、よくわかった。でもわたしは、まだこの世界をなんにも知らない。それでいいの?)
 と言いかけたしおんに、みどりはぐっと顔を近づけました。
 そして、しおんの不安を消すかのように、にっこりした顔になります。


「あ、そうだ! しおんちゃん、ふだんの生活で困ってることある? よかったらあたしが力になるよ! もしかしたら魔法で解決できるかもしれないし!」


「落とし物とかは?」
「すぐ見つかるよ!」

「……ママもパパもいなくて家に1人のときも、こわくないですむ……?」
「それぐらい余裕!」


「みどりちゃん……」
 みどりの顔を見ていると、つられてしおんの顔も、なんだか明るくなっていました。


「ね、ね! それにこっちの世界でも、しおんちゃんならたくさん友だちできるよ!」



 思えば、しおんにとってピアノは、弾いていて楽しいものではあったけど、あまり人からほめられるものではありませんでした。
 しおんよりもピアノができる子を、しおんはたくさん知っています。
 ピアノ以外でも。しおんより勉強ができる子も、運動ができる子もたくさんいます。


(だから自分は、みどりちゃんのように目立てないし、役に立てない)
 しおんは今まで、そう考えていました。


 でも、この世界ではしおんのピアノは、目に見えてみんなの役に立ちます。
 しおんにはそのことが、たまらなくうれしかったのです。


 それに日本に戻っても、みどりと、みどりの魔法と一緒にいられるというのが、しおんにはとっても楽しみでした。


 みどりによると、魔法のこと、この世界のことは、日本では隠していなければならないようです。
「けど、ほかの子が見てないところなら、日本でも魔法、使えるから! おもしろい魔法、たくさん見せてあげる!」


 あたらしい世界を前に、しおんはワクワクをおさえきれなくなっていました。
 不安もなくはなかったけど、がんばってみんなの役に立ちたいという気持ちが勝ったのです。



「……わかった! みどりちゃん、これからもよろしくね!」


 しおんがせいいっぱいの声を出すと、みどりもせいいっぱいの笑顔になりました。


「ありがとう! しおんちゃんに会えて、うれしいよ!」


 しおんに抱きつくみどり。その向こうで、兵隊さんや街の人たちが盛り上がります。


(――この人たちの、笑顔のために。わたしは、がんばるんだ)
 しおんは、固く決意しました。



 ***



 みどりの使う魔法で、しおんはグランドピアノと一緒に音楽室に戻ってきました。
 時計を見ると、エメラルド王国に行ったときから、まだ数分しかすぎていません。


「ほら、あたしの言ったとおりでしょ! それじゃあしおんちゃん、またねー!」
 れんらく先を交換すると、みどりは元気よく手を振って、音楽室を出ていきました。



(――わたしでも、誰かの役に立てるんだ。わたしでも、できることはあるんだ)
 しおんは、ピアノの上の楽譜を1枚、手に取ります。


 あのステージと同じようなそよ風が、楽譜の端っこをピラピラはためかせていました。



 ***

【考えてみてね】

 あなたがしおんだったら、どんな曲を弾いてみたい?





(おわり)
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