フェアリーヤーンが紡いだ恋 〜A Love Spun with Fairy Yarn〜
手作り小物が大好きな里桜。残念ながら彼女には、それらを作る器用な指を持ち合わせていない。
同年代の女性と比較して地味に見える。それは彼女がブランド品やお化粧にあまりこだわっていないからだろう。そんな彼女の唯一好きなものが、フェアリーヤーンの小物たちだった。
16歳の時に、たまたま見つけたこのネットショップに目を奪われる。
シンプルでありながら美しいデザインと編み目。当時の里桜には高嶺の花で、ただ眺めているだけだった。
大学合格をした時、両親が密かにプレゼントしてくれたここのトートバッグ。そしてアルバイト代を貯めて、大学生の時に初めて自分で買った小さな化粧ポーチ。それらは今でも大切に使っている。
そのトートバッグにはお手入れ方法の紙と一緒に、一枚のカードが添えられていた。
たった一言、端正で美しい文字で。
『大学合格おめでとうございます』
(ああ、こんな丁寧な文字も、ショップのサイトに並ぶ素敵な言葉も、そして何より美しい商品を生み出すオーナー女性。私の憧れだわ……)
そんな余韻を残しながら、ラップトップを閉じた。
その頃、東京下町の川沿い。
古い民家をリフォームした趣のある小さな一軒家。二階の作業部屋で、紅葉色の毛糸が静かに針の間を渡っていく。
そのリズムは、呼吸のように自然で確かなものだった。
突然、携帯の通知音が響く。
ピロリン
毛糸を編む手が止まり、画面が開かれる。
そこに表示された名前を、しばし見つめる。瞳の奥に微かに光るものがあり、口元に笑みが浮かぶ。
静寂に溶けていくようなその笑みの理由を知る者は、この部屋の外にはいない。
やがて、何事もなかったかのように再び毛糸が編まれはじめた。
同年代の女性と比較して地味に見える。それは彼女がブランド品やお化粧にあまりこだわっていないからだろう。そんな彼女の唯一好きなものが、フェアリーヤーンの小物たちだった。
16歳の時に、たまたま見つけたこのネットショップに目を奪われる。
シンプルでありながら美しいデザインと編み目。当時の里桜には高嶺の花で、ただ眺めているだけだった。
大学合格をした時、両親が密かにプレゼントしてくれたここのトートバッグ。そしてアルバイト代を貯めて、大学生の時に初めて自分で買った小さな化粧ポーチ。それらは今でも大切に使っている。
そのトートバッグにはお手入れ方法の紙と一緒に、一枚のカードが添えられていた。
たった一言、端正で美しい文字で。
『大学合格おめでとうございます』
(ああ、こんな丁寧な文字も、ショップのサイトに並ぶ素敵な言葉も、そして何より美しい商品を生み出すオーナー女性。私の憧れだわ……)
そんな余韻を残しながら、ラップトップを閉じた。
その頃、東京下町の川沿い。
古い民家をリフォームした趣のある小さな一軒家。二階の作業部屋で、紅葉色の毛糸が静かに針の間を渡っていく。
そのリズムは、呼吸のように自然で確かなものだった。
突然、携帯の通知音が響く。
ピロリン
毛糸を編む手が止まり、画面が開かれる。
そこに表示された名前を、しばし見つめる。瞳の奥に微かに光るものがあり、口元に笑みが浮かぶ。
静寂に溶けていくようなその笑みの理由を知る者は、この部屋の外にはいない。
やがて、何事もなかったかのように再び毛糸が編まれはじめた。