フェアリーヤーンが紡いだ恋 〜A Love Spun with Fairy Yarn〜
 リオは恋愛を避けている。それは中学・高校の頃、仲の良かった友達同士が、男の子をきっかけにあっけなく敵に変わるのを見たからだ。『平穏に生きる』、それが彼女の選んだ道だった。

 (今でもハッキリ覚えてる。昨日まで親友だった子が、男の子ひとつで豹変した。怖い、怖い。ああいうのはもう嫌だ。だから松本主任となんて……他の女子社員たちに何を言われるか。あぁ、こわっ! 私は好きなものに囲まれ、平穏に生きたいんだ。)


 「そうなの? ……里桜ちゃんとお似合いなのに」


 そう告げ、東野は自席に戻って行った。

 (いや、ヤバイですって。その恵子さんの発想!)

 引き出しに丁寧にバッグをしまう。

 先程の東野の言葉を打ち消すかのように小さく首を振り、コンピューターをオンにする。何気なく部屋を見渡し――合ってしまったのだ……松本と目が。里桜は慌ててスクリーンへと視線を移す。

 (ゲッ、睨まれてる。目つけられた? やばすぎでしょう、私)

 気まずさを隠すために、水をひと口飲む。

 (よし、仕事、仕事だ)

 再び松本と目が合わぬよう、入力に集中する里桜であった。



 終業時間になり、東野が里桜に声をかける。


 「里桜ちゃん、何か手伝うことあるかしら?」

 「これ入力したら終わりなので、大丈夫です」


 わかったという意味で頷いた東野は荷物をまとめた。


 「じゃあ、お先に」

 「お疲れ様です、恵子さん」


 数分後、入力を終えプリントした里桜は、松本のデスクを確認し小声で呟いた。


 「よし、今なら無表情マンはまだ戻っていない。さっさとデスクに置いて帰っちゃおう」


 早歩きで松本のデスクに近寄り、プリントした紙を置く。その時彼女の目に、あるものが止まった。


 「うふふっ。人には整理整頓って言っておいて、メガネケースしまい忘れてるぅ〜」


 (ん? ……あれ? これって……)

 それは手編みのメガネケース。落ち着きのあるライトグレーの完璧な編み目は、里桜の大好きなショップを思い浮かばせる。


 「なんで無表情マンが? でも、フェアリーヤーンにはカスタムメイドでもメガネケースはなかったはず……」


 その時ハッと気がついた里桜。


 「えっ、これって……私と同じステッチ?」


 そこにはケースの表面の縁を囲うように赤とライトブラックの糸で交互に並んだステッチ──里桜と同じものだった。


 「な、なんで私と同じステッチ? どういうこと……?」


 考えながら自席に戻り、引き出しから新しいミニバッグを取り出す。フラップを開け内側にあるステッチを確認する。

 (やっぱり同じだ。おかしいな。確かフェアリーヤーンでは一顧客につき一つの専用ステッチデザインって書いてあった……ってことは、まさか⁉︎)









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